魔法のひとこと

ある日。
研修医の失敗を、たまたま通りかかった私が助けたことがあった。「すごい失敗だなぁ〜」と思いつつも、実質的な被害も無く一安心。
後日カンファランスがあり、彼がその報告をしたらしい。
出席できなかったが人づてに聞くところでは、彼の論点はひとつ。「このような失敗を起こさせるような指導体制はおかしい」の一点張り。すまなさそうだったり、恥じ入ったりではなく、完全に開き直っている。
自分の未熟さが患者に害を与えかけたという認識は無い。力が抜ける。
そんな人間が、研修医を終えてからも、謙虚に勉強してよい医師になれるだろうか?訴訟対策には長けそうだが。
「上級医の処置も手間取っていた」だとぉー、いつも何もかもお膳立てしてやってからお前にやらせてる手技と、突然状況もよく把握できないまま悪条件でやっている手技を一緒にするな!
あまりにひどいので大して腹も立たなかったが、当然良い気持ちはしない。一緒に話をしていた同僚はみな怒っている。「殴ってやりたい」とつぶやく人もいる。

しかし人格者で有名な上司がひとこと。 
「すごいねー。そんな悪条件の中で良く処置できたね〜」
と、私を見てにっこり。 不愉快な気持ちはどこかに消えてしまった。
同時に、人の感情をコントロールする智恵と機転が少し怖かった。こういう人は、意外と厳しく人を観察しているものなのだ。たぶん。

それにしてもせっかくスーパーローテーションで2年の猶予期間ができたのだから、適性が無いと評価されたら免許を剥奪するようにしたらどうか。だいたい終身免許制なんておかしい。