裏山

裏山は、私にとって遊園地より楽しかった。小学校は山を切り崩して作られており、休み時間や放課後になると、一部の裏山好きな子供たちがダンボールを持ってダッシュする。切り崩した斜面がむき出しになっていて、木が何本か斜めに生えている。その斜面が大好きで、根っこにつかまりながら一番上までよじ登り、ダンボールですべりおりた。気が向いたら仲良しの子と木の根っこに腰掛け、お喋りをした。
横の細い道を登っていくと、小さな祠があり、そこの扉はどうやっても開かなかった。鬼婆が住んでいて扉を開けるとおいかけてくるとか、ここで用を足すとマムシにお尻を噛まれるとか、色んな噂があった。
山の中の斜面は一部開けており、ミカンの木が数本植えられていた。斜面に戦時中の防空壕が掘ってあり、まじめに絶対立ち入り禁止となっていた。そこはほんとに怖かったのであまり近寄らなかった。
ドングリやシイノミが落ちていて、拾っては食べた。シイノミは不味かった気がする。小さな穴があいているものは、中に虫が入っていてオエッとなる。
裏山を登りきると、田んぼと住宅地を眼下に見おろす。大変眺めが良い。そして今度は石がごつごつと突き出た斜面である。ここは落ちると痛そうなので、みんなあまりすべらなかった。下の田んぼには、秋になると袋を抱えてイナゴを取りに行った。今はもう気持ち悪くて食べられない。
とても臆病な子供だったので、怪我はほとんどしなかった。でも山にはよく行っていたので、しょっちゅう変な虫に刺されては顔や足が大変なことになった。一度登山に行って目が片方ふさがってしまった時は、お岩さんみたいで、親が面白がって写真に取りまくっていた。いまも写真が残っていて、ちょっと恥ずかしい。
小学生のころの自分がどんな気持ちだったか、楽しかったこと以外はあまり思い出せない。なにも考えていなかったような気がする。その証拠に小学生の時の写真はみんな口をぽかんと開けている。一人でバスにも乗れなかった。大人だったら完全にダメ人間だ。だけどなんであんなに楽しかったんだろう。