山奥のそば

私が尊敬する上司の英断で、当直明けは基本的にフリーになっている。これはこの業界では珍しい事だ。
実際には色々仕事が入ってしまうが、とりあえず今日は午前中に仕事を済ませると暇になった。
同じく昨日当直だった同僚と目配せしあう。(なんか、うまいもん、食う?)(食う)
せっかくの昼間なので、「明るいうちしか行けない山奥の蕎麦屋」というのに連れて行ってもらった。
車で20分くらいの山に入る。さらに細い道に分け入る。車一台ぎりぎり通れるような、急斜面の道だ。こ、これは、わが愛車アコードでは無理かも・・
10分後、到着。

これは店なのか? 周囲は静まり返り、雨の音と川の音、木々がこすれあう音ばかり。
「こんにちは〜」と入ると、「いらっしゃい」と老夫婦が出てきた。「えーと、鴨汁そばを二つ・・」当然のように客はわれわれだけ。店内は古民家だが、ジャズが流れている。

おじいさんが、鴨の焼き方をつきっきりで説明してくれる。箸でよーく肉を押さえて、肉汁を出してくださいと、とてもいとおしそうに鴨肉を扱う。この鴨肉はフォアグラ用のもので、本来ステーキで食べるものだそうだ。まもなく焼き上がり。そばつゆにさっと通す。
「さあ、ほおばって!」つききりである。容赦ない。咀嚼して飲み込むまで見届けたいらしい。仕方ないのでかぶりつく。う、うまい。 ・・満足げな店主。
そばは、割り箸ほどもある太くてかたいもの。そばの香りが強く、食感はもちもち。蕎麦湯はまるで粥のような濃厚さ。お腹も大満足。
店主が再び出てきて、コーヒーを入れてくれた。リキュールをワイングラスにふり、アイスコーヒーを注ぎ、これまたいとおしそうに、丁寧にミルクをたらす。コーヒーも絶品でした。