ミスと合併症

すべての医師が医学部で教えられる基本的なことだが、どんな医療行為もすべて傷害行為である。針を刺されたり、メスで切られたり、被爆させられたり。
国家資格をもった医療者が、怪我や病気の治療のために行う行為だからこそ、合法とされる。怪我や病気も嫌だけど、メスで切られるのも被爆も体にとってけして良いことではない。だからリスクを天秤にかけて医療をうけるか受けないか判断する。
最近、患者さんと話していて疲れるのは、この「天秤」という考えが全くない人が多い。
麻酔にはこれこれこういうリスクがあって、まれですが悪性高熱という致死的な病気を起こすこともあります、と説明をしたら、「そういうミスが起こったら、当然補償されるんですよね。うちの子を一生面倒見てくださるんですよね」とすごい剣幕で親御さんに言われたことがある。
ミスと合併症は違う。合併症は低い確率ではあるが必ず起こりうるものである。対処には最善の努力をするけど、残念ながら努力が及ばないこともある。医療の限界を超えた場合、対処は不可能だ。
絶対に安全な医療行為はありえない。ありえない以上、このお子さんの麻酔は断るしかなくなる。うまくいっても日給9,800円、上手くいかなかったら億単位の賠償金か、逮捕。
今回の産科医事件のような「最善の努力をした」ケースが起訴されてしまうなら、医療を行うことは不可能だ
今、6年間の医師人生の中で、私のモチベーションはもっとも低空飛行。
癒着胎盤の術前診断はほぼ不可能というのが専門家の見解。前置胎盤の診断でC/S、準備輸血5単位、常識的な準備だと思う。私なら麻酔を引き受けてしまうだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060313-00000090-mailo-l07

起訴を受け県病院協会は11日、「逮捕、起訴は地域医療に携わる医師ならびに安全で質の高い医療を求める地域住民に対して大きな混乱を招いた」との緊急声明を発表した。全国的にも医師側の反発は続く。こうした動きに捜査関係者は「公判が始まれば、今までの同情論がひっくり返る。それが過失の証明になる」と自信をのぞかせる。

結局捜査関係者は何がしたいわけだ?喧嘩に勝ちたいだけなのか?自分たちのしていることが、医療全体に与えている影響は全くわからないのか。