胴体着陸

るな先生のエントリに激しく共感したのでTBします。
おなじ事故でも : るなのひとりごと

麻酔科医の仕事はよく飛行機の操縦にたとえられるだけに、
「もし術中喘息発作が起きたらどうする?」とか
「悪性高熱が起きた場合はどうする?」とか
「術中心停止が起きたらどうする?」とかいうケースを想像する。
それを無事に切り抜けたら、こんな風に「麻酔科医の処置は理想的♪」とほめられちゃったりするのか??そもそも「術前によく喘息をコントロールしていなかった」「悪性高熱の問診をしてなかった」「心機能をちゃんと評価していなかった」という指摘でボコボコにされたりしないのか?

間違いなくボコボコにされだろうな〜と思います。後出しじゃんけんで「もっとこうすべきだった」「こうしたら助かったはず」などと専門外の警察や裁判官、マスコミの皆さんにダメ出しをされる職業ですから。
今回うまく着陸した機長さんを捕まえて、「なぜ整備不良に気づかなかったのか」「こうしたら車輪は出たはずではないのか」などと責めまくり、犯人扱いで報道し、もし怪我人が出たら「業務上過失傷害」なんかで書類送検しちゃうのと同じ事が、医者に対しては当然のように行われています。そう考えて今日はしみじみと落ち込みました。

機長さんがいじめられにくい理由のひとつには、事故にあったら自分も死ぬということも大きいと思います。偏った見方かもしれませんが。もちろん航空事故も医療事故も、個人の資質よりはシステムの欠陥が原因となっている事が多いのですが、航空事故で客観的な議論がされやすいのは「機長さんは命がけで事故を回避しようとしたけど亡くなった」というウエットな部分から個人攻撃に走れないためではないでしょうか。これは良い事で、個人の責任を追及して「あいつが悪い」と言っても事故の再発防止にはほとんど役に立ちません。
 
本来医療事故の論じ方もそうあるべきですが、とかく医療事故では医者は生きているので、被害者や遺族の憎しみの対象にされやすい。それを警察や司法が後押ししているのが昨今の流れで、悪意がなく明らかな過失も無い不幸な死亡例に対して、医師個人の責任を問うて逮捕や書類送検などを行うようになってきました。どうみても「それって現代医学の及ばない重い病気で亡くなっただけ」と言いたくなるような例も、病院で亡くなれば病院の過失ですか・・・。
あたかも飛行機事故で亡くなる機長のように、一事故に対し一人の医師を見せしめにしたいのでしょうか。もちろんそれでその医師は社会的に大きなダメージを受けますし、モチベーションを失って仕事をやめる人も出てくるでしょう。航空事故はめったに起こらないし乗客何百人に機長は一人ですが、病院で患者がなくなることは日常茶飯事ですし、一人が亡くなるたびに一人の医師を社会的に抹殺すれば、あっというまに医師はいなくなって、医療事故はこの世からなくなるでしょうね。それが警察や司法の目指している世界なのかな?