わが母の記 (講談社文芸文庫)

わが母の記 (講談社文芸文庫)

井上靖の老母の80歳から89歳で亡くなるまでの記録。認知症と肉体の衰えを淡々と書いた本。
しろばんば」では実母は割り切った冷たい感じの人なのかなという印象を持っていましたが、子供たちに愛された温かい人だなと思いました。それでも認知症の老人と住む言うことはすさまじいものです…。
真っ先に亡くなった夫のことを忘れ、子供たちのことも忘れていく。人生っていったいなんなのだろう。
夜中に老母がいなくなり、慌てて戸外を探すシーンがあります。すぐに見つかりますが、「赤ちゃんがいなくなったの。どこに行ったのか」とオロオロしている。その赤ちゃんは成長して目の前にいるのに、それがわからない。
自分の母親が年老いて赤ん坊だった自分を探しているような、自分自身が年老いて赤ん坊の長男を探しているようなイメージがふっと浮かんで、どうしようもなく切なくなりました。