左手

仕事帰りに寄ったマッサージで、お姉さんが私の両手を揉みほぐしながら不思議そうに首をかしげた。「珍しいですね、左手の手のひらが張っていて疲れがたまっています」
ふおおお、さすがプロ。麻酔科医は左手をけっこう使います。外科の先生ほどでは無いかもしれませんが。
患者さんの背中を左手でぐりぐりと押し、棘間を探る。そこで右手に持った針を刺す。寝かせたあとは左手で下顎とマスクをしっかり持って気道確保。これが意外と力が要り、新人は何分と続けられない。そして左手で重い喉頭鏡を持ち舌や軟部組織をぐっと持ち上げて喉頭展開し、右手でそっとチューブを入れる。そのあとは、左手で細い動脈を触診し、その感覚を頼りに右手で針を刺す。力仕事から頭脳労働まで、左手のお世話になる事数知れず。
少し前に、大好きな先輩が頚椎症になった。「感覚がわからない。物が持てない。」と涙をこぼした。どう声をかけていいかわからなくて胸が詰まった。今は静養しているけど、どうかどうか良くなりますように。