弱点

心臓に問題のある患者さんの麻酔である。手術が終わっても気が抜けない。
普通にさましてフガフガ苦しがられるのも嫌なので、自発呼吸をだして深麻酔下にそっと抜管して、ネーザルエアウェイを挿入した。
気道がうまく開通しない。大柄な方なので、エアウェイが届かないかな?手元に大きなオーラルエアウェイがあったので、それと代えてみた。
さっきよりはマシかな? 口の上に手をかざしてみるが、うまく呼気が感じられない。思わず顔を近づけた。
ちょうどその時気道が開通して、私の耳に
フッと生暖かい息がかかり、私は
「うひゃあ!!」とのけぞってしまいました。
看護師さんがびっくりした顔で「なに?どうしたの先生?
 
 
・・・。
私は異常にくすぐったがりなところが弱点で、どれくらい弱点かと言うと、美容院でもシャンプーの時には、笑い出さないように全身が硬直し、ものすごく肩がこってしまうくらいの弱点です。
仕事をする上で普段はほとんど困らないのですが、ひとつだけ私がどうしても習得できない麻酔科医の技があります。
ソレは・・・
盲目的経鼻挿管。 どのような技かと言うと、
患者さんの鼻から呼吸のチューブを通し、自分の耳に吹きかかる患者さんの息の音を頼りにチューブを気管に誘導するという技です。こう書いただけでゾクゾクします。
医師になって1年目のころ、オーベンの先生が張り切って
「今日はブラインドネーザル(盲目的経鼻挿管)を教えてやる!」とやる気満々だったのに、鎮静した患者さんの頭上でチューブに耳を当てながら、顔を真っ赤にして寄声を出さないように耐えていたのは私です。その時はすんなり入ったので、本当に助かりました。あれいらいもうやっていません・・・。
もちろん代わりにファイバー挿管を死ぬ気で練習しましたよ。あああ。だけど喉頭鏡もファイバーもトラキライトもなくて、ラリンゲルマスクもない災害時などに、挿管チューブだけが手元にあったらどうしよう・・・。いつか来るかもしれないその時のために、もう一度弱点を克服しなければいけないでしょうか。