緊張

帝王切開の麻酔の時に、緊張する癖が治らない。
普段は割と突き放したというか、冷めた感じで患者さんを見ている気がするのだが、帝王切開の患者にはどうしても感情移入してしまう。何ヶ月も大変だったね、普通に産めなくて残念かもしれないけど、これから待望の赤ちゃんに会えるからね、と思ってしまう。しかも出生の瞬間は何度見ても涙が出るほど感動する。「お腹押しますよ!」といって大きく手を突っ込む産科の先生、苦痛に顔をゆがめるおかあさん、思わず「がんばって!」と肩をさする。そして元気良く産声をあげる赤ちゃん。
普段の淡々とした手術室にはありえないドラマなんだろう、多分。それで自分の平静さが失われるのかもしれない。陣痛に苦しむおかあさんに針を刺す時、普段は震えない手が震え、抑えるのに力がこもる。
帝王切開でもなんでも、突き放してクールにいつもどおり仕事をしたい。そうしていないといざという時に対応が遅れてしまう。感動している場合ではない。自分は未熟者だ。